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ななめうえ

ガトリングガンをご存じだろうか。

言わずと知れた、世界初の製品化された機関砲である。

 

言葉の響きがカッコいいのと、今となってはある程度なじみができたせいで、一見(一聴?)すると、「ガトリング形式の砲兵器」みたいに思えるが、「ガトリングガン」の名称は、開発者である「リチャード・ジョーダン・ガトリング(Richard Jordan Gatling 1818 – 1903アメリカ)」に由来する。

 

このガトリングさんは単なる兵器屋ではなく、農夫であり、漁師であり、教師であり、経営者であり、発明家、さらには裁判官書記官であったり、実に多才な人物である。

件のガトリングガンも、自前で開発した種まき機の機構を応用したらしい。

 

さらに彼は医学の博士号を持っているのだが、それを知った時ぼくは、おやっ、と思った。

なぜならば、仁術である医術の心得がある者が、効率よく多量に人をぶっ殺す兵器を開発した、という事実にギャップを感じたからだ。

化学兵器とかだったらまだわかるが、機械兵器である。

人を救う術を持つものが人を効率よく大量に殺す機械兵器を生み出す理由がいまいちつながらなかったのだ。

 

ところが、実はこの開発背景はなかなかに興味深い。

ガトリング氏は、南北戦争初期に、戦死者の多くが戦闘による死亡ではなく、病死であることに気づいた。そこで彼は、「1人で100人分の働きができる機械があれば、戦場に投入する兵士の数を大幅に減らすことができ、結果的に戦死者も減るのではないか」と考えたそうだ。

つまり彼は、数多く人殺しをする機械を開発したのではなく、戦闘に投入する人の数を減らすため兵士が持つ戦力を増強することを考えた。

 

これはたぶん、医学的な知見、発明家としての経験など、様々な視野やスキルを持った彼だからこそできた発想、開発だと思う。

そもそも開発の動機は「戦死者を減らすため」であり、機構のもとは「種まき機」である。

 

多様なスキルや知見を組み合わせ、専門外から斜め上の発想と解決法を持ってくる。

 

このような物や人が、専門が細分化し過ぎた今の世界に一石を投じることができるのではないだろうか。